関西演劇祭2020総括コメント

関西演劇祭フェスティバル・
ディレクター
板尾創路
板尾創路

第二回関西演劇祭を振り返って思う事は、コロナ禍で役者達の溜まりに溜まったエネルギーが、表現の仕方は個々違えど、爆発してたように感じました。古代からの祭事である演劇を10の劇団が丸で青森のねぶた祭の山車の様に、
それぞれのテーマとドラマを載せて暗い闇の中に輝きを放ったんだと思います。
終演後のティーチインは出来上がった熱々の料理を皆で食べる食事会の様で楽しかったです。味付けが濃かったり薄かったり、好き嫌いもあったりで有意義な時間でした。
ハイレベルな劇団、若いパワフルな劇団、シュールな劇団、十人十色で皆が愛おしくなる劇団ばかりでした。不思議な演劇の見せ方と見え方をぜひ体感しに来てください。私も一観客として
第三回が待ち遠しくてなりません。

板尾創路

関西演劇祭SPサポーター
(審査員)
西田シャトナー
西田シャトナー

関西演劇祭第二回を終えて

演劇は、それを行う意志がなければ出現しません。
演劇は、そこに行く意志がなければ目撃できません。
関西演劇祭2020は、その演劇の純粋な「意志」の部分に迫る、強烈な演劇祭となりました。言うまでもなく、長引く感染症拡大の中での開催だったからです。これほどまでに惰性から遠い開催もありません。
運営のありとあらゆる局面に工夫が必要であり、参加劇団にとっても乗り越える課題は多く、観客の皆さんもまた観劇には緊張があったことでしょう。サポーターの一人として参加した私は、演劇は今この時しか誕生しない現場なのだという強いリアリティを感じました。

舞台裏は、大変静かでした。劇団同士もスタッフも距離を取り、交わす言葉少なく進行せねばならないのです。そこには、ただただ熱気がありました。

この演劇祭に、10劇団が参加しました。

【Artist Unit イカスケ】。
どんな一秒も楽しませようとする執拗な脚本と演技が、観客を爆笑させました。不器用な部分も含めて審査員の心を捉え、審査員特別賞(青木道弘)を受賞しました。

【安住の地】。
COVID19の被害が拡大する「今の現実」への戸惑いをそのまま演じ、結果楽しい作品に仕上げるという挑戦が、客席を沸かせ驚かせました。

【キミノアオハル】。
今の若者たちも優しく濃厚につながることを望んでいることを、ストレートに描きました。若い観客たちもそれを支持し、劇団が観客賞を受賞しました。

【くによし組】。
参加劇団たち皆が「あの劇団の芝居は見ておくべき」と口をそろえる、先鋭的で魅力にあふれるチーム。脚本賞(國吉咲貴)、演出賞(國吉咲貴)を受賞しました。

【劇団アンサングヒーロー】。
吉本新喜劇の俳優たちが、とことん真剣な演技で演じる、新喜劇ではない喜劇。凄まじい面白さに客席が騒然となりました。ベストアクター賞(佐藤太一郎)を受賞しました。

【劇団 右脳爆発】。
軽い喜劇のように始まり、やがて息詰まる謎解きになり、最後には鮮烈な社会風刺SFになるという高密度の仕掛けで、観客を翻弄しました。

【劇団The Timeless Letter×ラビット番長】
老人介護にまつわる人と人との関わりの物語を、地に足がついた語り口で楽しく優しく描き、観客たちは皆、自分の人生を重ねて涙しました。

【劇団 乱れ桜】
「夢が必ずば叶うとは限らない」という誰もが持つ疑問と不安に、見事な力強いメッセージを届け、客席を熱く震わせました。アクター賞(とだただし)、ベストアクトレス賞(佐野あやめ)を受賞しました。

【ばぶれるりぐる】
演技、演出、物語、どれをとってもため息が出るほど磨き抜かれた最上のクオリティで、観客のみならず関係者皆に絶賛されました。演出賞(チャーハン・ラモーン)、ベスト脚本賞(竹田モモコ)、アクトレス賞(東千沙都)を受賞しました。

【May】
全力疾走する俳優たちと、ほとばしるような物語で、3世代に渡る人々の歴史と青春と人生を描き、止むことのない大喝采を浴びました。脚本賞(金哲義)、ベスト演出賞(金哲義)、アクター賞(北野秀気)、アクトレス賞(鄭梨花)を受賞、そしてMVO(最優秀作品賞)に輝きました。

この「関西演劇祭2020」を駆け抜けた、素晴らしい10劇団でした。
こうして、未来、この2020年を振り返る時、災禍の中にあっても演劇は止まらず、若い才能たちは輝いたのだという記憶が残ることになりました。
応援者としてこの場にいさせていただけたことを感謝しております。

西田シャトナー

関西演劇祭SPサポーター
(審査員)
行定勲
行定勲

2020年は全世界が立ち止まり、
個人がこの先の生き方を考えた大変な一年だったと思う。

演劇人たちは未知のウィルスを前に感染拡大を阻止するために公演を中止し、
表現することを封印せざるを得なかった。

そんな状況下に演劇祭を開催するということがどんなに大変なことだったか。
終始、運営側と参加する若き演劇人たちの意思の強さを感じながら、
私もサポートする一人として心して彼らの演劇に向き合った。

どの劇団からも熱を帯びた気魄と、演じるという歓びが感じられ、
演劇の素晴らしさとその意義を知るいい時間でした。

無事に最後までやれるかどうかもわからない状況下だからこそ、
その一瞬一瞬が美しく輝き、放たれた芝居からは情熱が感じられ、
感動や勇気や生命力を我々に与えてくれ、演劇という芸術に触れることは、
この疲弊した世界には必要なのだということを実証していた。

素晴らしい演劇祭だったと思います。

また3回目である2021年は、これまでに注目された劇団の逆襲や、
まだまだ出会えていない才能に期待しています。

行定勲